GA4は何ができる?中小企業が知っておくべき「得意なこと」と「できないこと」の境界線

Webサイトを作ると、制作会社やコンサルタントから必ずと言っていいほど「GA4(Googleアナリティクス4)を入れましょう」と提案されます。「はい、お願いします」と答えたものの、実際のところ「そのツールで具体的に何が見えて、何が見えないのか」を正確に把握している方は意外と少ないのではないでしょうか。

「サイトに来た人の名前まで分かる魔法のツール」だと思っていませんか? 「とりあえず導入すれば、売れない理由が勝手に分かる」と期待していませんか?

この期待値のズレが、後々の「Web担当者への無茶な指示」や、誰も見ないレポートを作るだけの「無意味な分析ごっこ」に繋がります。

この記事では、難しい専門用語は一切使いません。GA4というツールが持っている「能力の限界」と、中小企業が知っておくべき「ちょうどいい付き合い方」について、実務の視点から解説します。

まず理解しよう。GA4が得意な「4つの見える化」

GA4をリアルな「実店舗(お店)」に例えると、その役割が非常に分かりやすくなります。GA4は、お店の入り口や通路に設置された「高機能な自動カウンター」のようなものです。

主に以下の4つのことが分かります。これらは、お店の健康状態を知るための基礎データです。

1. 「どれくらいの人が来たか」が見える

一番の基本機能です。「昨日、お店(サイト)に何人入ってきたか」が分かります。

専門用語では「ユーザー数(何人の客が来たか)」や「表示回数(延べ何ページ見られたか)」と言いますが、要は「客足」です。これを毎月チェックするだけで、「先月より客足が減っているぞ?」「チラシを撒いたから増えたな」といった、お店の賑わい具合を把握できます。

2. 「どこから来たか」が見える

お客さんが、どの道を通ってお店に来たかを知ることができます。

GoogleやYahooで検索してたどり着いたのか(自然検索)、お金を払ったWeb広告をクリックして来たのか、あるいはX(旧Twitter)やInstagramなどのSNSから流れてきたのか。名刺のQRコードや、お気に入り(ブックマーク)から直接来たのかも分かります。

「高いお金を出した求人広告から、実は誰も来ていないじゃないか」といった残酷な事実も、ここで判明します。無駄な宣伝費をカットし、効果のある場所に予算を移すための重要な判断材料になります。

3. 「どんな人か」が大まかに見える

ここが少しデジタルならではの凄いところです。Googleが持っている膨大なデータと照らし合わせて、「どんなタイプのお客さんか」を推測して教えてくれます。

使っているのはスマホか会社のパソコンか。地域は東京か大阪か(市区町村レベルまで分かります)。さらには、年代や性別、興味関心(例:旅行好き、ビジネスに関心あり)などの推定データも見ることができます。

例えば、建設業の求人サイトで「閲覧者の8割がスマホ」だと分かれば、「パソコン用の綺麗なデザインより、スマホでの見やすさを優先しよう」という経営判断ができます。

4. 「どのページが人気か」が見える

お店の中で、どの商品棚の前にお客さんが集まっているかが分かります。

会社概要をじっくり読んでいるのか、料金表を見てすぐに帰ったのか、あるいはブログ記事がバズっているのか。「入り口」になったページと、「出口」になった(帰ってしまった)ページも分かります。

「社長の挨拶ページは誰も見ていない」というような、知りたくない現実も見えてしまいますが、これもサイトを改善するための大切なデータです。

ここは見えません。GA4の「3つの限界」

さて、ここからが本題であり、最も重要です。GA4は万能ではありません。「これくらい分かるだろう」という思い込みが、現場の混乱を招きます。以下の3点は「GA4では分からない(苦手である)」とはっきり認識してください。

1. 「個人の特定」はできない

「昨日の夜に問い合わせてきた、あのA社の田中さん。問い合わせる前に、サイトのどのページを見ていたか教えてくれ」

これは、中小企業の社長からよく出るリクエストですが、GA4単体では絶対に分かりません。

GA4はあくまで「統計データ(群衆)」を見るツールです。「30代男性がアクセスした」までは分かっても、「それが田中さんである」と紐付けることはできません。そもそも、Googleの利用規約でも、個人を特定できる情報(PII)をGA4に送信することは厳しく禁止されています。

無理やり特定しようとする行為は、プライバシー侵害のリスクを伴う「やってはいけないこと」です。「田中さんの動き」を知りたい場合は、GA4ではなく後述するMAツールが必要です。

2. 「ユーザーの感情」は読めない

GA4では「数字」は見えますが、「理由」は見えません。

例えば、あるページの滞在時間が短かったとします。しかし、それが「つまらなかったからすぐ帰った」のか、逆に「欲しい情報(電話番号など)がすぐ見つかって満足して帰った」のかは分かりません。

数字だけを見て「滞在時間が短いからダメなページだ!」と決めつけるのは早計です。お客さんが画面の前で怒っているのか、喜んでいるのか。定性的な「心の動き」までは、GA4の管理画面をいくら睨んでも答えは書いてありません。

3. データは「100%正確」ではない

これが意外と知られていない落とし穴です。GA4のデータは、銀行の通帳や会計ソフトのように1円単位で正確なものではありません。

ユーザーが「Cookie」を拒否した場合、計測されません。また、iPhone(Safari)などのプライバシー保護機能により、データが意図的に欠落することもあります。さらに、データ量が多すぎると、Google側で一部を間引いて集計(サンプリング)することもあります。

「管理画面では100件となっているのに、実際の問い合わせは102件ある。おかしいじゃないか!」と担当者を詰めてはいけません。Webのアクセス解析とは、あくまで「傾向」を見るものであり、多少の誤差は必ず生じるものだと割り切ってください。

「Web分析」には3つの階層がある

では、GA4で見えない部分はどうすればいいのでしょうか。「どのツールを使えばいいか分からない」と迷うのは、ツール名で選ぼうとするからです。Webサイトの分析には、大きく分けて3つの階層(レイヤー)が存在します。まずはこの全体地図を頭に入れましょう。

これらは「どれか一つが優れている」のではなく、健康診断(全体)から精密検査(詳細)、そしてカルテ確認(個人)へと、見る対象の解像度が異なります。

第1階層:全体を見る(マクロ分析)

担当ツール:GA4

これが分析の土台です。「森全体を見る」作業と考えてください。個々人の顔は見ませんが、全体として「人が増えているか」「どの道(流入経路)が混雑しているか」を数字で把握します。

扱うのは「数値(PV数、セッション数、直帰率)」です。サイト全体の健康状態やトレンドを把握するのは得意ですが、「なぜその数字になったのか」という理由の特定は苦手です。実店舗で言えば、入り口にある「自動カウンター」です。何人入ったかは正確に分かりますが、客が笑顔だったか不機嫌だったかは分かりません。

第2階層:1人について詳細を見る(ミクロ分析)

担当ツール:ヒートマップ(Microsoft Clarity、ミエルカなど)

GA4で「数字の異常」を見つけたら、次に行うのがこの分析です。「木を一本一本観察する」作業です。数字には表れない「ユーザーの迷い・感情」を可視化します。

扱うデータは「色(熟読エリア)」や「動き(マウスの軌跡)」です。ページ内の「どこで興味を失ったか」「どこをクリックしたくて迷ったか」を知ることができます。「直帰率が高い(GA4)」という結果に対し、「ファーストビューのキャッチコピーが読まれていないからだ(ヒートマップ)」と原因を特定するために使います。実店舗で言えば「防犯カメラ」や「店員の目視」です。客が商品棚の前で立ち止まって悩んでいる姿が見えます。

第3階層:見込み顧客分析(個人特定)

担当ツール:MA(マーケティングオートメーション)

ここは「顔と名前」を見る領域です。BtoB(法人取引)や高額商品を扱うビジネスで重要になります。「群衆」ではなく「特定の個人(リード)」を追いかけます。

扱うデータは、個人情報(氏名、メールアドレス)と紐付いた行動履歴です。「A社の田中さんが、昨日料金ページを見た」というタイミングを検知し、営業アプローチに繋げることができます。ただし、事前にメールアドレスなどの登録が必要であり、初見の匿名ユーザーをいきなり特定することはできません。実店舗で言えば「会員カード」や「顧客カルテ」の世界です。

【番外編】第0階層:市場分析(流入前分析)

担当ツール:Googleサーチコンソール

GA4やヒートマップは「サイトに来てから」の話ですが、そもそも「来る前」の状態を知るツールも必須です。それがGoogleサーチコンソールです。

これは検索エンジン(Google)との対話ツールです。「どんなキーワードで検索されたか」「検索結果には表示されているのに、クリックされていないのではないか」が分かります。また、「サイトがハッキングされていないか」などのセキュリティ警告もここに届きます。サイトにお客さんを呼び込むための「看板」のメンテナンスツールと言えます。

中小企業における「正解の組み合わせ」

これら全てを導入し、使いこなす必要はありません。従業員20名以下の中小企業であれば、以下の「守りの2点セット」があれば十分合格です。

  1. Googleサーチコンソール(第0階層): 看板が出ていないと誰も来ないため、必須です。
  2. GA4(第1階層): 客足(数字)が減っていないか、月1回の健康診断用に入れます。

LP(ランディングページ)を作って広告を出す場合や、求人サイトのエントリー率を上げたい場合にのみ、ヒートマップ(第2階層)を追加検討してください。MAツール(第3階層)は、専任のマーケティング担当者が採用できてからで遅くありません。まずは「全体(GA4)」と「入り口(サチコ)」を固めることが、失敗しないWeb運用の第一歩です。

結論:中小企業は「傾向」だけ掴めれば合格

最後に、アルウェブとしての結論をお伝えします。

「分析ごっこ」で時間を浪費するのはやめましょう。

大企業のマーケターであれば、GA4の複雑な機能を使いこなし、微細なデータを分析する仕事も必要かもしれません。しかし、中小企業の社長や兼任担当者の仕事は「分析」ではなく「売上を作ること」や「採用すること」です。

データが取れないことにイライラしたり、使いにくいGA4の管理画面と格闘して半日潰してしまう。これは本末転倒です。「正確な数字」を知ることよりも、「大まかな傾向」を掴んで、さっさと次のアクション(ブログを書く、営業メールを送る)に移るほうが、よほど業績に貢献します。

Looker Studioで「サクッと確認」が正解

では、どうすればいいのか。答えはシンプルです。

「GA4の管理画面は見ない」

これに尽きます。Googleが提供している無料のレポートツール「Looker Studio(ルッカースタジオ)」を一度設定してしまえば、必要な数字だけが見やすくまとまったレポートが自動で生成されます。

「今月は何人来たか?」 「どこから来たか?」 「どのページが読まれたか?」

アルウェブでは、中小企業の実務に必要な項目だけに絞った「健康診断テンプレート」を配布しています。これさえあれば、GA4の管理画面にログインして迷子になることもありません。

毎月1回、5分だけレポートを眺めて、「異常なし!」と確認したら、すぐに本来の仕事に戻ってください。Webツールに使われるのではなく、ツールを「守りの武器」として使いこなす。それが、賢い中小企業の戦い方です。

アルウェブ編集部
アルウェブ編集部